addio

アッディーオ

蝶の墓

 

私が彼女の言葉に出逢ったとき、彼女はすでにこの世にいなかった。

いなかった?違うな。いる、けれども、人間ではなくなっていた。私たちが知覚できる生物としての人間。私は彼女の言葉に出逢い、彼女の世界の一部を取り込み、いまは彼女の一部を肉体と精神の欠片として持っている。

 

二階堂奥歯

 

八本脚の蝶。

 

彼女の世界が私の世界を形づくり、変容させ、変化させた。それは繭の中で幼虫が溶けてまったく別の存在に生まれ変わるような体験だった。己の変化を体感し自覚するという体験は、このときが初めてだっただろう。

 

彼女の言葉。

 

彼女の世界。

 

もしも、もう少しだけ彼女が生まれるのが遅ければ、今この時代、精神病について情報が溢れ患者が増えて多少は理解があり、SNSで苦痛を共有することができるようになった世界だったなら、彼女は生き延びられたのではないか?と思ってしまう。彼女の高潔かつ過激な精神がそれを許すかは別として。

 

私は見たかった。生き延びた彼女を。もっと先を生きる彼女を。

彼女の言葉を。彼女の世界を。見てみたかった。

 

愛しています、奥歯さん。

どうかあたたかな場所で、安らかに眠られますように。

 

 

八本脚の蝶

八本脚の蝶